連載官能小説『ストリッパー』第3回
「最近、工藤さん変わった?」
と、佐々木信彦が洋子に向かって言った。
彼らは今、会社の休憩室の中にいる。
信彦は密かに洋子に憧れており、こうして時折声をかけることがあるのだ。
「そうですか? 別にいつもと変りないですけど」
と、洋子は澄ましたまま答える。
髪型はもちろん、化粧や服装などは一切変えていない。いつも通りなのである。
唯一、変わった点と言えば、ストリッパーとして働き始めたことだろう。これは会社には内緒なのではあるが、彼女は密かに踊り子として働き始めている。最初の公演から既に1カ月が経ち、今では一人で普通にステージに立っているのである。
恥ずかしいという感覚よりも、もっと人に見られたいという思いが強くなり、彼女は日に日に進化していった。もしかすると、そのしとどに溢れ出るオーラが、彼女を変えていったのかもしれない。
洋子はスッと立ち上がると、そのまま自分のデスクの方へ消えていった。
その姿を、眩しそうな瞳で信彦が見つめている。
(絶対変わったと思うんだけどなぁ……)
女が変わる理由。
信彦に考えられるのは、ただ一つであった。
(もしかすると、彼氏ができたのかもしれない)
そう思うと、奈落の底へ突き落される。
それでも、仕方のない面もあるだろう。何しろ、洋子は超がつくほどの美人である。普通の男性なら絶対に放っておかないであろう。それは、信彦もわかっていた。彼は、今年入社して10年になる32歳の男性であるが、洋子を一目見た時から気に入っていた。つまり、一目惚れであると言えるだろう。
一目惚れして以来、信彦は洋子に首ったけになったのだ。
右足首にある、少し大きめのほくろの存在だって知っているのである。
それくらい、彼は洋子を深く観察している。
(あぁ、洋子ちゃん、彼氏できちゃったんだ……)
ショックを隠し切れずに、信彦はフラフラと仕事へ戻った。
その日の仕事は、全く手につかず終始ぼんやりとしてしまった。
仕事を終え、信彦は夕暮れの駅前を一人歩いていた。あまり外食しない信彦は、基本的に仕事が終わったら、直ぐに帰宅する。しかし、今日はそんな気分になれなかった。憧れの洋子に彼氏ができてしまったかもしれない。
そう考えるだけで、胸が張り裂けそうになるのである。
いくら考えても仕方ない。元より、自分のような冴えない男が、洋子に憧れたって何の意味もない。告白したって、恐らく玉砕であろうし、遠くから見ているだけで満足するしかないのだ。
それでも、洋子に彼氏ができてしまったかもしれない事実に、彼はどんよりとしていた。
(はぁ、俺、これからどうやって生きていけばいいんだろう)
ため息は尽きない。
そんな中、彼はいつしか駅の裏道を歩き始めていた。この辺りは、風俗店もあり、夜の世界が広がっているのだ。
店の前に立つキャッチ風の男が声をかけてくる。
それを無視しながら、彼は歩いた。
しかし、ある店の前で彼は止まる。
(ストリップか……。そういや見たことないよな)
信彦が止まったのは、ストリップ劇場『ムーンライト』。
信彦は、風俗経験はあるのだが、ストリップを鑑賞した経験はない。店の前に煌びやかな雰囲気に、何となく興味が湧いた。店の前で立ち止まっていると、キャッチ風の男に声をかけられ、そのまま店の中に入ってしまった。
あまり詳しくはないのだが、5000円払えば、ずっと鑑賞していられるようであった。それくらいなら、問題なく払える。ストリップでも見ていくか……。
劇場の中は、それなりに混雑していた。信彦が驚いたのは、意外にも女性客がいるということであった。もちろん、多くは男性なのであるが、ちらほら女性のお客さんもいるのである。それも結構若い女性であった。
(へぇ、最近の若い女の子は、ストリップなんて見るんだ)
そう思うと、不思議と興味が湧いてくる。
ムーンライトは、入れ替え制なしで、料金を払えば延々とショーを見ていられるのだ。ただ、裏側の側面もあり、店側に気に入った踊り子の話をし、特別に料金を払えば本番行為ができるのである。ただ、これを知っているのは、一部の常連だけで、それ以外は皆、健全にストリップを楽しんでいる。
ショーが始まり、軽やかで激しい曲調の音楽が流れる。それに合わせて、ストリッパーが登場し、踊り始める。衣装はそれほど際どいものではない。シースルーのワンピースドレスであった。それでも太ももが丸出しになっており、クルっと反転すると、ヒップのラインまでよく見えた。
それなりに、エロ要素はあるようであった。初めてみるストリップに、ただただ、信彦は感動していた。踊り子のダンスは素晴らしく、妖艶な輝きがあった。エロ要素ももちろんあるのであるが、単純に美しい。そんな風に思えるステージだった。
暫くショーを見つめていて、彼はある事実を把握しつつあった。どうやら、ストリッパーには二種類あるようで、仮面をつけるタイプと、そうでないタイプがあるみたいだ。仮面をつけるというのは、きっと顔出しがNGなのだろう。何か理由があるのかもしれない。
三人目に登場した踊り子は、仮面をつけていた。それでもスタイルが素晴らしく、さらに衣装も結構際どいものであった。真っ赤なビキニ風の衣装である。ビニール素材でできているようで、全体的にテカテカとしている。また、ところどころに金具があしらわれており、どこかハードな印象を与える。
思わず見惚れてしまう信彦。
(凄くキレイなスタイルをしているなぁ)
ふと、足元に目がいった。そして、そこである事実を発見する。
(え、う、嘘だろ……)
彼が驚くのも無理はない。今、仮面をつけて踊っている踊り子の右足首には、やや大きめのほくろがあるのだ。これと同じほくろを持っている人物を、信彦は一人知っている。
そう、それは……。
(まさか工藤さんじゃないよな)
仮面をつけているし、ステージまで距離があるので、正確にはわからないが、見れば見るほど似ているような気がしてくるのだ。
妖艶なダンスをしているストリッパーをじっと凝視していると、僅かに目が合ったような気がした。そして、その瞬間、確かに踊り子の動きが狂った。それまで、正確無比なダンスをしていたのに、急に戸惑ったようになり、ダンスがちぐはぐになったのである。
(もしかして、俺って気づいたから、踊りが変になったんじゃ……)
一人のストリッパーのダンスは大体15分程度である。
あっという間に仮面の踊り子のダンスは終わってしまった。
そして、入れ違いに、別のストリッパーが出てきて、新たにダンスを始める。
これを5回繰り返すと、一つのステージが終わり、休憩を挟んで、第二ステージが始まるという寸法である。
夜はまだ長い。このままダンスを見ていてもいいのだが、さっきの仮面の踊り子が激しく気になる。そう思った彼は、直接店の支配人の元へ行き、仮面の踊り子に会いたいと懇願した。しかし、仮面の踊り子との接触はできないようであり、調査はそれまでになってしまった。
だが、神は信彦を見捨てなかった。
信彦が帰ろうとしていると、奥の方から声が聞こえた。
「ちょっと、お兄さん。こっち」
それは女性の声であった。
「え? 俺に何か?」
彼に声をかけてきたのは、先程ショーに上がっていたストリッパーであった。
ショーを終えたためなのか、バスローブのようなものを羽織っている。
「早くこっちに来て」
言われるままに、信彦は彼女の元へ向かった。
そして、ある一室に案内される。
それは店の裏にある部屋で、小ぢんまりとしたベッドが置かれた一室であった。
「あ、あの、ここは?」
「お兄さん、さっき奈津ちゃんのこと聞いていたでしょ?」
「奈津?」
「そう。仮面の踊り子よ」
「確かに聞きましたけど」
「彼女のこと知りたいのなら、教えてあげてもいいけど」
「え、本当ですか?」
「その代わり、3万円でどう? もちろん、サービスはするから」
「さ、3万ですか」
普段節制している信彦は、3万程度の手持ちはある。
迷いはあったが、洋子について知りたいという気持ちの方が優った。彼は素直に支払いに応じる。
「わかりました。払いますから、教えてください」
「ウフフ、ありがとう。じゃあベッドで楽しみながら教えてあげるわ」
そう言うと、謎の踊り子は、信彦をベッドの上に座らせ、そして、着ていたスラックスを脱がし始めた。そして、ボクサーパンツ姿にさせると、自らもバスローブを脱いでいく。
「私は瑠奈。ここで3年くらい踊り子をしているの。あなたは?」
偽名を使うか迷ったが、彼は名前だけ名乗ることにした。
「俺は信彦です」
「信彦さん、いい名前ね。じゃあ早速サービスしてあげる」
瑠奈はそう言うと、ボクサーパンツを脱がして、持っていたおしぼりで信彦のペニスをよく拭いた。そして、徐に手でペニスを握りしめると、ゆっくりと上下に動かしていった。
ペニス全体に血液が集まり、一気に硬く隆起していく。普段風俗など利用しないから、信彦は不思議な気持で手コキを受けていた。
「う、くぁぁ」
「気持ちいいですか?」
「うん、気持ちいいよ。この店はこういうサービスもあるのかい?」
「はい、常連のお客様だけに、特別料金を払えば、踊り子と寝れるんです」
「へぇ。それは知らなかったなぁ。随分健全なイメージがあったけれど、違うみたいだね」
「そうしないと店も生き残れないみたいですよ」
やがて、瑠奈は口をペニスに近づけていった。
どうやら、フェラまでしてくれるらしい。久しぶりのフェラの感覚に、信彦は恍惚とした表情を浮かべた。
「お、俺、シャワー浴びてないけど。汚いんじゃないかな」
「大丈夫です。私、洗ってないおちん×んが意外と好きなんです。独特な匂いがして、たまりません」
瑠奈は、静かにペニスを口に含むと、じゅぼじゅぼと音を立てながらフェラを開始した。
その心地よさに、信彦はうっとりとしてしまう。
早くも射精感がせり上がり、イキたくなってしまう。
「不味いよ、もうイキそうだ」
「そうですか、口でイクのと、おま×こでイクのどっちがいいですか?」
「おま×こがいいかな」
「わかりました。じゃあ本番と行きたいところですかが、私も興奮してきました。ちょっと舐めてもらえませんか? 私あそこを舐められると感じるんです」
「わかった。その代わり、仮面の踊り子について教えてくれよ」
「ウフフ、もちろんですよ」
その言葉を聞き、信彦は瑠奈を仰向けに寝かせ、そして股を開いた――。
〈続く〉
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