連載官能小説『隣人は占い師』第1回 

連載官能小説

連載官能小説『隣人は占い師』第1回 

 とある地方都市。

 都心から電車で数時間離れたところにあるA市に住んでいる梶田雅也や、今年三十歳になる青年男性である。

 彼にはとある悩みがあった。

 その悩みとは、三十歳になっても未だに童貞というものである。

 彼は、セックスはおろか、女性と手をつないだ経験すらないのだ。

 早く童貞を卒業したい。

 その思いはある。

 しかし、現状は厳しい。

 彼女ができる気配はないし、出会いにも期待できない。

 きっと、このまま童貞で一生過ごすのだ……。

 と、悲観的になっているのであった。

 

 彼は、駅から十分ほどの場所に建つアパートで一人暮らしをしている。

 どこにでもありそうな1Kのアパートである。

 地方都市であるため、都心に比べると家賃は安い。

 彼は地元のタウン誌を作っている出版社に勤めているのだが、給料は薄給である。

 だからこそ、細々と暮らしていたのだ。

 出版社というと、出会いがありそうな環境ではある。

 しかし、彼が担当するのは、地元に密着した記事であるため、基本的に年齢層が上の方に取材するのだ。

 この地方都市は、若い人があまり多くないから、必然的に中高年に向けたタウン誌や生地を執筆する。

 そうなると、必然的に出会う人間も年上ばかりなのである。

 そんな環境が嫌なわけではない。

 人生経験を積んだ人間の話を聞くのは面白いし、自分の書いた記事が評価されると、やはり嬉しいものである。

 だからこそ、雅也はこの仕事にやりがいを覚えていた。

 このままずっとやっていきたい。

 そんな風に思っていたのである。

 

 ある日――。

 今日は日曜日。

 つまり休日である。

 小さな出版社に勤める雅也は、基本的に土日が休みである。

 午前中はゆっくりと惰眠を貪りながら、お昼過ぎにむっくりと起き上がる。

 部屋の中は、燦々と陽射しが差し込んでいた……。

 季節は秋。

 秋晴れの、気持ちがいい季節である。

 雅也のすむA市は、冬になれば雪が降るような地区ではない。

 穏やかな日々が続く、田舎の街なのだ。

 だから、これからの季節はしばらく安穏な日々が続くだろう。

 観光シーズンも迎えるし、街は活気を取り戻すはずだ。

 秋晴れの陽射しを浴びながら、雅也は、コーヒーの準備を始めた。

 準備と言っても、お湯を沸かしてインスタントコーヒーを溶かすだけである。

 ゆっくりとコーヒーを飲みながら、ベランダに出てみる。

 気持ちのいい秋の風が、頬を打った、

 彼は二階建てのアパートの二階に住んでいる……。

 ふと下をみると、大きなトラックが止まっているのがわかった。

 引っ越し用のトラックのようである。

(誰か引っ越してきたのかな?)

 このアパートは、割と立地環境がいいので、人が出ていくと、すぐに新しい人が入ってくる。

 実をいうと、つい先日隣の住民が引っ越しがばかりなのだ。

 引っ越し会社の若い社員らしき人間が、荷物をトラックから出し、アパートの中に運び入れている。

 その脇に、小さな人影があるのがわかった……。

 小柄な女性である。

 引っ越しの荷物を見つめ、何やら指示を出しているようだった。

 彼女は、白のブラウスに、黒のジーンズを穿いていた。

 全体的に細身のシルエットで、今風の女性である。

 年は、雅也と同じくらいか、少し下だろう……。

 つまり、二十代後半から三十代前半。

 若々しく、白い肌が太陽光に照らされてキラキラと輝いて見えた。

(キレイな人だな)

 と、雅也は思った。

 それもそのはずで、その女性はかなり可愛らしい顔立ちをしているのである。

 目がクリクリと大きく、二重瞼である。

 それでいて、鼻筋がすっとキレイに立っていて、引き締まって見える。

 やや切れ長な瞳が、爛々としており、快活そうに見えるのだ。

 左耳には、小さなピアスが開いていて、それもまた可憐な印象がある。

 ハートをモチーフにした、シックなアクセサリーである。

 女っ気が全くない生活を送っている雅也にとって、この女性の出現は、とても嬉しいものであった。

 だが……。

 どうせ自分には縁のない話だろう。

 あれだけの美女である、

 当然、彼氏がいたっておかしくはない。

 男性が放っておかないような、可愛らしい顔立ちをしているのだから。

 しかし――。

 神様は雅也に微笑んだ。

 それは後に判明する。

 

     *

 

 夕方――。

 雅也の趣味は料理を作ることである。

 少し凝った料理から、おふくろの味と呼べる料理まで、幅広く作れるのだ。

 今日は、少し奮発していい鶏肉を買ってきて、ホワイトシチューを作った。

 市販のルーを使うのではなく、ホワイトソースから自作である。

 生クリームをたっぷり使い、さらに、小麦粉を炒ったりして、一から作ったのだ。

 鼻歌を歌いながら、雅也は調理を続けた……。

 ただ、少し張り切り過ぎたのか、量を作り過ぎてしまった。

 ホワイトシチューは冷凍もできるが、既に冷凍庫は野菜や果物、それに白ご飯などでいっぱいになっていた。

 ざっと十人前はある。

 これだけの量は、流石に一気には食べられない。

 かといって、腐らせてしまうのはもったいない。

 そこで思いついたのが……、

「お隣さんにお裾分けしようかな?」

 というものであった。

 しかし、根っからの引っ込み思案が災いし、マイナス要素ばかり考えてしまう。

 もしかしたら、引かれるかもしれない。

 いきなり隣の住民がホワイトシチューを持っていったら、不審に思われるかもしれない……。

 などと、色々な不安要素が入り混じり、なかなか行動できないのであった。

 もしも彼に、もっと女の子に対する耐性があったのなら、フランクな口調でお裾分けができたかもしれない。

 しかし、雅也は童貞である。

 生まれて三十年。

 女っ気のない生活を送ってきたのである。

 そんな彼に、引っ越してきたばかりの女性にお裾分けを持っていくという作業は、いささか難易度が高すぎた。

 そうこうしていると、日が暮れ、室内は薄暗くなる。

 慌てて電気を点けて、このホワイトシチューをどうするべきか考えていると、突如インターフォンが鳴り響いた。

(あれ? 誰だろう? こんな時間に)

 何か通販で買った記憶はない。

 となると、何かの勧誘だろうか?

 このアパートにも、怪しげな商品を売りつける訪問販売や、新聞の勧誘、宗教の勧誘など、幅広く来客はあるのだ。

 もちろん、そのすべてを雅也は断っていたのだが、毎回面倒になるので、出るのが億劫になっている。

 しかし、根が律儀な雅也は、嫌がらず玄関のトビラを開けた。

 すると、意外な人物が経っていたのである……。

 雅也の前に現れたのは、日中に引っ越してきたあの美女だったのだ。

 

     *

 

「あの、隣に引っ越してきたものです。引越しの挨拶に来ました」

 と、女性は言った。

 なかなか可愛らしい声である。

 声が高く、透明感があるのだ。

 女の子に対する耐性のない雅也は、やや吃ってしまった。

「そ、それは、わざわざすみません」

「桐生香菜って言います。宜しくお願いしますね」

 と、香菜と名乗る女性は言った。

 愛らしい名前である。

 花のような印象のある彼女にピッタリだと思えた。

「お、俺は、梶田雅也です。どうぞ、よろしく……」

 これで話は終り。

 雅也はそう思った。

 しかし、香菜は意外なことを言ったのである……。

〈続く〉



Follow me!

コメント

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました